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act 5 襲来

その「日」はいつもと同じように明けた。
なのに、アタシは突然何かの予感を感じ、目を覚ます。
・・・何だ?結界には揺るぎが無く、
アタシの戦士としての感もまだ危険が迫っているなんて感じないのに。
なのに、どうしても胸騒ぎがしてならない。
そんな不安で上体を起こすと、隣で眠っていたナーリとジーナを見詰めた。
彼女らはまだよく寝ている。
時刻はまだまだ夜が明けて間もない。

もう一度戦士として、周囲に気を巡らしてみる。
・・・大丈夫。危険は無い。
「アイラ」が張った結界も揺るぎが無い。
少なくとも、自分、ミューンがこうまで熟睡出来た、ということは、
周囲に危険を感知しなかったからだ。
それは長年の習慣で判っている。
「ミューン」は長い間戦いの場にあった者なら、
また生き残ったものなら誰でも身に付く、
自分に害意のあるものの到来を察知する能力が染み付いていた。
「ミューン」自体は何も危険が無い事は感知している筈・・・なのに。
得体の知れない不安な予兆で押しつぶされそうになっていた。

「アイラ」は害意を取り除く能力や、
あらかじめ危険から周囲を守る能力には長けていた筈だが、
未来予知の能力など無かった筈だ。
しかし、周囲の気を読み、
もっと自らのサーチを遠くまで飛ばせれば、
この不安を取り除く事が出来るんだろうか?
同一の体内に宿る二つの意識は、
何故異なる能力を持っているんだろう。
・・・生まれた時からすでに分かたれていた能力と意識なだけに、
普段は特に何も思わなかったのだが、
今ミューンは得体の知れない不安の中、
始めて焦り、というものを感じていた。
もしも今いるのが「アタシ」でなく、
「アイラ」なら、もっとこの予兆を読み取り、
適切に対処できるかも知れない。
いっそナーリを起こし、「アイラ」に変身させてもらうか?
・・・しかし、そうすると今度はいざ襲撃の時に
うまく対処が出来ない。
「アイラ」は感情で能力を左右してしまう。
いざという時は、自分の感情を殺してまでも、
冷静に敵に対処できる能力は当然ながら戦士の「ミューン」が持っていた。

こうして、もう一人の自分の事を見詰めなおすのも、
もしかしたら初めてかも知れない。
それぐらい自分の日常は緊張に強いられていたのだ、と苦笑する。
他の事を考えでもしないと、大きな不安で叫びだしてしまいそうだ。
・・・もう一人の自分・・・「アイラ」
「ミューン」とは違い、余分なまろやかな脂肪さえ持たない
華奢な体、黒いつややかな髪を持つ、通称「黒のアイラ」
魔術に長けており、気を読み、堅牢な結界を張る当代一の魔術師。
自分の出生を哀しみ、自分を生み出した世界を呪い、
だから人の負の感情に引きずられがちなもう一人の「自分」
「ミューン」と「アイラ」は同一な肉体を持ちながら、
「記憶」も一致しているにもかかわらず、
二つの「感情」は決して交わる事が無い。